悩み多き30代OLの日常

のんびりマイペースに日々の生活を淡々と。

かめはめ波の使いみちについて考える

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寝る前に考えるのは、たいてい悪いことだ。

 

その日あった嫌なことや、次の日の仕事のこと。考え出すと止まらなくなり「あー!もー!嫌だ!」と無理やり考えることをやめるか、考えることに疲れて、いつの間にか眠っている。

 

 

子どもの頃は違った。

 

「もしも魔法が使えたら」

「もしも宝くじが当たったら」

「もしも透明人間になったら」

 

ワクワクするような妄想をすることが、一日の最後の楽しみだった。

しかし妄想力豊かな私でも、唯一ワクワクできなかったことがある。

 

 

 

「もしも、かめはめ波が使えたら」

 

 

 

多くの方はご存知だろう。漫画ドラゴンボールに出てくる、両手首を合わせ「かーめーはーめー波―!」の掛け声と同時に、手のひらから光を放出し敵を倒す、あれだ。

その威力は凄まじく月をも破壊する。

 

かめはめ波に憧れる人間は少なくない。

 

インターネットで検索すると、かめはめ波の撃ち方や練習方法を記したページが、数多くヒットする。なかにはYahoo知恵袋で「現代の技術で何とかかめはめ波を作れないか」と質問する猛者までいる。

 

多くの人間を魅了するかめはめ波だが、私は「もしも、かめはめ波が使えたら」と妄想したとき、恐怖に震えた。

 

 

 

まず考えてほしい。手のひらから大量の光が出るのだ。体にかかる負担を考えると、病院に行かなくてはいけない。

 

その場合、何科を受診すればよいのだろう。皮膚科?整形外科?まずは内科を受診した方がよい気もする。

 

しかし病院に行ったところで、この症状を何と伝えればよいのだろう。

 

 

 

「手のひらから強い光が出ます」

 

 

 

医者はこう言うだろう。

 

 

 

「実際に見せてください」

 

 

 

それはできない。月をも吹き飛ばす威力だ。多少加減したとしても、実演が終わる頃には病院は跡形もなく消えているだろう。

 

精神的な負担を考えると、心療内科に通う必要も出てきそうだ。

 

 

 

次に考えるのは、かめはめ波が使えるという事実を、公表するかどうかだ。

 

一人で抱え込むには、あまりにも問題が大きすぎる。しかし安易に人に話せば、噂というのは瞬く間に広まる。周囲から警戒され、街を歩くことも困難になるだろう。

 

親に話すのも控えた方がいい。「こんな体に産んでしまって……」と母親が自分を責める可能性があるからだ。

 

話すのは口の堅い、信頼できる友人、三人だけだ。

 

 

 

「見てほしいものがある」

 

 

 

そう言って、街から遠く離れた人気のない山へと連れていく。

友人たちは、私がかめはめ波を使えると知ったら何と言うだろう。軽蔑されたらどうしよう。私は今日、大事な友人を失うことになるかもしれない。道中、口数の少ない私を、友人たちは心配するだろう。

 

山に着くと、周囲の安全を確認し、大きな岩に向かって、私はできる限り小さなかめはめ波を撃つ。

 

 

 

「かーめーはーめー……波っ!」

 

 

 

私の手のひらから岩に向かって、一直線に青い光が放出され、大きな岩は爆発音とともに木端微塵に砕け散る。一瞬の出来事だ。

 

皆、言葉を失う。腰を抜かしている者もいる。パラパラと小石が崩れる音だけが響いている。

長い沈黙のあと、友人の一人が意を決して立ち上がる。

 

 

 

「使いみちを考えよう」

 

 

 

私たちは家に帰り、思いつく限り意見を出しあう。

 

・敵を倒す→殺人罪になる。

・YouTuberになる→CGだと思われ飽きられる。

・解体工事を手伝う→無難だが、もったいない気もする。

・びっくり人間コンテストに出る→有名になり悪い組織に目を付けられる可能性がある。

・温泉を掘る→土地、権利、設備等の初期費用がかかりすぎる。

・世界を滅亡させる→絶対ダメ。

かめはめ波教室を開く→誰もかめはめ波を習得できなかった場合、詐欺罪で訴えられる可能性がある。

 

 

一晩中考えても答えは出ない。

 

 

世間に公表すれば、有名人になり大金を稼げるかもしれない。

 

しかし、そんな幸せは一時的なことのように思える。有名になった私に近づいてくる人の中には、私のかめはめ波を悪用しようとする人もいるだろう。もっとも避けなくてはならないのは、かめはめ波が軍事利用されることだ。

 

 

私は友人たちに、かめはめ波を封印することを誓うだろう。これは四人だけの秘密にしておこうと。

 

 

誰にでも特技や才能がある。

 

それは生まれもったものかもしれないし、努力して習得したものかもしれない。人に自慢できるようなものかもしれないし、特技とも言えない些細なものかもしれない。

 

どんな特技や才能も、使いみちは自由だ。

 

私利私欲のために使うこともできるし、使わずに捨ててしまうこともできる。

 

けれど、皆が自分の特技や才能を、誰かのために使おうと思ったら、世界は少し平和になるのかもしれない。

 

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