地味な私がWebデザイナーを目指した話
特徴のない薄い顔。
低い身長に、ボンキュッボンとは程遠い体型。
好んで着る服の色は、白、黒、ベージュ。
性格はおとなしくて真面目。
私は、地味だ。
そんな私が、事務職として勤めていた会社を辞めて目指したのは、Webデザイナーという職業だった。
華やかな世界への憧れ。自分を変えたいという願望。
その気持ちだけを胸にWebデザインスクールの門をたたいた。
その教室には10代の大学生から50代の経営者まで、様々な経歴と肩書を持つ人たちが通っていた。私と同じように、会社を辞めてWebデザイナーへのジョブチェンジを考えている人も多かった。
デザインという分野を目指す教室だけあって個性的な人が目立つ中、ひときわ目を引くYちゃんという女性がいた。
外国人のような彫の深い顔。170センチ近くある長身。真っ赤なジャケットを華麗に着こなすその姿は、どこをとっても私とは正反対だ。
そんなYちゃんと私はなぜか気が合い、仲良く授業や課題に取り組むようになった。
彼女の作った課題は、どれも個性的だった。たとえ無記名だとしても、すぐにそれが彼女のものだとわかるほどに。
それに比べて私の作るものは、どれも生真面目で遊び心に欠けている。良く言えばシンプル、悪く言えば地味。ぼんやりとしたデザインには、どこか自信のなさが感じられる。
私は次第にYちゃんに対して劣等感を抱くようになる。
地味コンプレックスだ。
授業が進んでも自分の作るものに自信を持つことができず、地味コンプレックスを抱えたまま卒業制作の時期が訪れた。
この教室では、卒業制作として1人1点Webサイトを作成し、皆の前でプレゼンを行う。
私は知り合いの経営するお店のWebサイトを作成することにした。
このお店では、海外から輸入した洋服や雑貨を販売している。店内にはカフェを併設しており、何時間でも居たくなるような落ち着いた雰囲気だ。
私は覚えたてのカメラで、店内や商品の写真を何十枚も撮り続けた。
撮影した写真の中から、これだと思うものを数点選び、ああでもない、こうでもないと何度もやり直しながらWebサイトのデザインを作成する。
デザインが決まったら、自分の作成したデザインがWeb上で正しく表示されるようにプログラミングしていく。
提出期限が迫り、最後は徹夜もしながら約1か月かけて卒業制作が完成した。
そして運命のプレゼンの日が訪れた。
プレゼンは、学校関係者だけでなく、特別審査員として招かれた現役のデザイナーやディレクターたちの前で行う。優れた作品であれば企業からスカウトされることもあるが、合格点に達していなければ辛辣な意見を投げかけられることもあるという。
トップバッターはYちゃんだ。
彼女が作ったWebサイトがスクリーンに映し出されると「わぁ」と歓声が上がった。
今まで見たことがないような個性的なデザインには、所々にユーモアが散りばめられており見る人を飽きさせない。やっぱりYちゃんはすごい。
審査員からの評価も上々だった。
次々とプレゼンは進み、ついに私の番がやってきた。
私は震えていた。今まで人前でプレゼンなどしたことがない。さらにYちゃんのプレゼンを見たことで、私の地味コンプレックスはさらに増していた。
「どうしよう……頭が真っ白だ……あーもう、どうにでもなれ!」
私は覚悟を決めた。
何度も言葉に詰まりながら、制作期間の苦労や、このWebサイトを作ったことでお店を訪れる人が1人でも増えてほしいという想いを、時間いっぱい伝えた。
すると、1人の審査員からこんな言葉をもらった。
「このWebサイトは、見た目がシンプルだからこそお店の雰囲気がよく伝わってきます。それに正確にプログラミングされていて、中身がしっかりとしたサイトだと思います」
嬉しかった。
褒められたのはWebサイトなのに、地味で真面目な自分自身を認められたような気持ちになった。
そしてプレゼン後、私は2社の企業からスカウトをいただき、晴れて夢のWebデザイナーになることができた。
地味だからこそ、主役を際立たせる名バイプレイヤーになれる。
地味だからこそ、人知れずコツコツ努力することができる。
そしてそれを認めてくれる人に出会うことができる。
地味に生きるのも悪くない。
私はこの日を境に、地味コンプレックスを捨てた。
あれから10年。
私はWeb業界を離れ、地元の小さな企業でマイペースに働いている。
Webデザイナーとして働いていた時の地味な仕事ぶりが評価され、知り合いから「新しく立ち上げる会社の経理を担当してくれないか」と誘われたからだ。
Webデザイナーの仕事に多少の未練はあったものの、名バイプレイヤーとしての血が騒ぎ、私はこのオファーを快諾した。
一方Yちゃんは、着々とWebデザイナーとしてのキャリアを積み重ね、現在は東京の大手プロモーション会社でバリバリ働いている。
相変わらず正反対な2人だが、今でも仲は良い。
私は彼女を尊敬しているし、彼女はいつも「自分にないものをたくさん持っている」と私のことを褒めてくれる。
正反対な2人が仲良くいられるのは、お互いの個性を認め合っているからなのかもしれない。
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